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第50回 日経青洋上研修

~自立する社員の育成を目指して~

 

                 洋上研修特別講師 桐 村 晋 次 氏

 私に与えられた一時間近くの中で、「この洋上研修で何を学ぶか」についてのお話させて頂きます。
 この9日間で、皆さんは四季を経験出来ます。冬の日本を出て、ロサンゼルスで春から夏へ、メキシコで真夏、帰路で秋、そして日本に帰国して冬となります

 私は第一回目の昭和47年の2月の船の運営委員長を務めました。
 当時、私は古河電工という非鉄金属のメーカーで、営業や工場、人事等いろいろとやって来ました。第一船の当時は本社に居ましたので、日経連(日本経営者団体連盟)の関係の講演を聞いたり、勉強会に出たりしておりました。

 私は昭和12年の生まれなので、ちょうど日本と中国との戦争が始まった年です。戦争の最中に育ち、空襲を経験し、裏山に逃げて、先祖の墓地で一夜を過ごす、そういう状況でありました。

 そんな中で、食料不足でしたので、畑を耕したりしていましたが、日本国内に居ましたのでまだ救われました。外地(朝鮮や中国・満州・台湾)に居た人たちは食うや食わずで、日本国内に帰って来ました。何も情報のない世界でした。

 今の皆さんは豊富に与えられた情報の上で働いていますが、情報が与えられない中で、我々の先輩は、その時代を乗り越えて来ました。そのことを考え、今回の研修期間中、人に頼らず、出来るだけ自分で動き、状況を把握して下さい。それにはどうしたら良いか、想像力をどんどん働かせて下さい。
皆さんはいろいろな情報は持っているけれども、創造力や想像力が日本人は落ちて来ているように思います。与えられた情報だけで判断していると感じます。
 しかし、今度は、情報がない船だけの世界に一時的ですが入って行きます。何が起こっているかわからない。いずれにしろ外国です。ところが、我々は外国という感覚を忘れ、日本国内という気持ちについなりがちです。
これから行くアメリカは、新しい大統領トランプフィーバーに見られるように、揺れ動いています。

 ところで皆さん方は訪問先のアメリカやメキシコについて調べて来ましたか。
 私の載ったインタビュー記事が皆さんのお手元にあるかと思いますが、これは私が書いたものではありません。フリーライターと言う仕事の方が雑誌社に頼まれて、私に1時間余り私にインタビューして書いたものです。
大変に良く出来ていたので、書いた人を褒めました。そしたら、彼が言うには、自分は書いて納めて何ぼの世界で生活しています、と言っておりました。
皆さんのように会社に勤め、給料が入る状況ではありません。記事の出来が悪いと即座に仕事を失ってしまう。そういう厳しい仕事をやっている。「相手と会う前に6割から7割書けていないとダメだ」と先輩に言われ、それを行っているそうです。
 つまり、私が書いたものを読み、講演録をあらかじめ目に通しておく。だから質問がちゃんと出来る。質問が出来るから、しっかりした文章も書ける。はじめて聞いて書いたならば、薄っぺらな記事となってしまう。だから、そうならないよう、予め読んで書いて来て、それだから、ちゃんとした質問が出来る。このことを忘れないで下さい。
何故皆さんに調べて来たかとの質問をしたのは、今回、ハリウッドの近くに行きます。有名人の手形で知られている街ですが、それだけ見ていると気が付かないかもしれませんが、その近くにホームレスが沢山います。我々はアメリカが貧富の差は日本より激しい。これはある程度新聞等で知っています。しかし、それから想像力は働かせない。つまり、もらった情報だけで対応してしまう。もらった人の話だけで対応する。だから、情報を与えられないと、頭の中が動き始められない。その情報も与えられて、はじめて頭に入る。
 ホームレスがこんな多くいることと、新聞等で貧富の差が激しいことを知ると、アメリカの社会は一体どうなっているのか、こう思うようになります。
 
アメリカは合衆国です。合衆国と日本の違いは、いろいろな国の生い立ちがあって、州の法が強い、州の独立性が強いと言うことです。
イギリスの流れを組んだところ、フランスの流れを組んだところ、スペインの流れを組んだところ、それぞれ違います。行くのであるならば、それぐらいのことは知って頂きたいと思います。何のために合衆国と言うのか。日本は合衆国とは言わない。明治維新で一つの国にまとまりましたが、合衆国とは言わない。アメリカはそれぞれの州によって違いますから、トランプ大統領は、各州の裁判所の長官を首にすることが出来ない。各地域で選んでいる。
 この州で通った事が、違う州で通らなかったことなどざらにあります。日本の法律制の制度とは違います。

 アメリカの刑務所には、かなりの数の日本人の営業マンが入っています。日本では全く問題ないやり方が、アメリカでは談合したということになる。国によって非常に違うということが、これだけ国際化して来て、やっと我々も身に染みてわかるようになりました。日本ではこうだとか、こう言うはずだとか思わずに、いろいろと見て下さい。

 ヨーロッパでのジョークにこんな話があります。船が絶海の孤島に難破して、男3人、女1人たどり着きました。
まずこの4人がアメリカ人だったらばどうだろう。3人は畑を一斉に耕し始めて、翌年、より収穫の多い人が、彼女を獲得する。成果主義です。
アラブ人だったらどうだろう。アラブ人は自分の領土をめぐって戦いを繰り返すから目には目をで3人は戦いを始めて、勝ったほうが彼女の愛を得るであろう。
日本人だったらばどうか。急いで本社に電話をして上司の指示を求めるであろう。自分で考える習慣が付いていないと縋ってしまう。そのことを改めていこう、と言いうのがこの洋上研修の狙いです。その考え方を「準拠枠」という見方があります。心理学の言葉です。

 我々は自分で考えているようでも、自分で育ってきた組織や習慣だとかの枠、つまり「準拠枠」を超えられない。だから自分の考えに合わない事はダメだと思う。しかし、相手の話をちゃんと傾聴することは、ものすごく大事なことです。終わりまできちんと話しを聞けることが出来るかどうかです。
私が会社に入った時、有名大学を出た優秀な人が何人もいました。しかし、必ずしも彼らは大きな仕事が出来ていない。会社の中で力を発揮出来ていないのはなぜでしょうか。若いうちは力を発揮しました。
しかし、彼が話すと周りの発言が出来なくなってしまう。彼が発言するのを皆が待つから知恵が集まらなくなります。年と共に人間の脳は劣化して行きます。自分の頭の中に、この「準拠枠」が彼流に出来て来ます。これは悪いことではありませんが、ほかの考え方を入れることをやらないと、他の人がそこに発言やアイデアを持って行かなくなるから、その人の考えがだんだん古くなって固定して来ます。だから年と共に、その人の伸び方が縮んで来ます。皆様の周りにいる、若い間は頭のいいと思われている人が、必ずしも残るとは限りません。
 定年後、20年の月日が皆様のところにあります。そのために、今をしっかりと自分を作っておかないと、いい仕事も出来ないし、会社も伸びてはいきません。長寿社会では定年後は「余生」ではありません。

 体と同じです。若いうちに鍛えておいて昨日までの自分が今日の自分を作っている。
 今日の自分が明日の自分のもとを作ります。いろいろなことにチャレンジして失敗することもいいことと思います。成功も失敗も成長の糧・成長の基になるのです。失敗しないようにやっていくのではなく、今回の旅は恥の搔き捨てに近いところもあります。大いにやって下さい。
洋上研修のテーマは「グローバルな視野で日本を見つめ、自分の役割を作ろう」です。
 自立出来る人を創る。自分で考える。そして殻に閉じ籠らないで、いろいろなことを考える人になろう。ということです。
 サラリーマンが働く人(勤労者)の過半数になったのは1960年です。    1955年は就業者比率の40%が農林業で自営業者が多数でした。今の農業人口は3%を切りました。3%を切ったということは、外国から食べ物を輸入しないとやっていけない国になったことです。そしてどんどんと第2次産業が増えました。昭和30~50年まで国が仕立てた集団就職列車が走りました。家族が別々になる。仕事を継ぐ家業がなくなるから帰る道がなくなってしまう。自分で食べていかねばならない。

 1949年にはサラリーマンの比率は34%しかいません。自営業、農業が多かった。
 例えば皆さんが八百屋だとします。そうすると、野菜はどこから買うか、果物はどこから買うか、店主はいろいろと考えます。店を少し大きくした。どこにどうゆう物を置くと買いやすくなるだろうか、また、従業員の賃金も税金対策も考えます。仕事は全部繋がっています。ところが皆さん方の仕事は非常に限られた専門性の仕事になって来ています。頭が固まってきてしまいます。世の中がこのようになっています。だから自分はいろいろなことを知っているとは思わないほうがいいと思います。

 ほかの人の仕事は分からない。だから今回の研修は、各地からいろいろな仕事の人が居るから、自分でいろいろなことを考えて、また会話をして「準拠枠」を打ち破って下さい。自分を見直すチャンスです。
1960年にサラリーマンが過半数に達します。分業での考え方が浸透し始め、男は男、女は女の考え方が進んで来た。家業の時は、上の学校に上げる必要はないです。なぜならば家で鍛えればいいからです。ところが家業がないから、何とか子供を学校に行かせる。
 教えて覚える、教えて覚える、の繰り返しなので、自分に与えられたこと以外対応出来ない。何が問題かが解らない。
 昨年、ロサンゼルスのスーパーに行きました。生成食料品は作った農家の人の写真が貼ってあり、50項目チェックしていますから、ここの商品はとても新鮮でおいしいとの説明でした。
 しかし、こんなにコスト掛けたならば値段が高くなると思うはずです。私どもの企業は2割給料が高いので人気企業です。とスタッフが言っていました。しかし、このコストはどうなっているのか、普通、自営業者ならば考えます。だけど、コストを考えるのは他の人と思っていると考えない。給料2割増しならばどうして吸収しているのか考えないとおかしい。ところが分業の世界だと考えない。それは他の人が考えるものと考えてしまっている。
そういう質問が出てこない。それは普段から物事を調べて自分で考えるという習慣が付いていないと出てこないと言うことです。

 さて、明治維新の推進力となった吉田松陰の松下村塾はわずか2年で、何故、木戸孝允、高杉晋作や伊藤博文、山形有朋などの総理大臣になる人が育って行ったか。
 日本には昔から伝えられる勉強の方法として会業(かいぎょう)、会読(かいどく)という2つの方法があります。これは本居信長の頃出来上がったもので、職場の小集団活動と同じです。
会業とは、集まった人がそれぞれ得意分野の話をし、お互いにそれについて議論します。
 会読とは、ひとつの本を手分けして読む。この会業・会読というのは、日本人だから出来る。日本人は北海道から沖縄まで文字が読めるんです。共通の教科書で学んできた。だから、集まって即座に話が出来ます。これは、外国ではあり得ません。あなた日本語しゃべれますか、というとことから始めなければいけない。

 もともとロサンゼルスはどこの国のものですが。アメリカ合衆国が一つにまとまったのが1776年です。歴史を調べると、いろいろなことがわかってくる面白さがあります。
 日本が一つの国にまとまった、それまでは藩なので、国はありません。日本国がないから移民もない、国籍がない。
松下村塾の凄さは、百姓の子も、農民の子も、侍の子も一緒に机を並べて、先生もそこに並んで勉強した。高杉晋作は武士の子供です。初代総理大臣の伊藤博文は農民の子供です。
 そういう者が一緒に学んで、松陰自身が「僕は」「君は」と言った。それぞれ学んで来たところが違う人たちが一緒に学んだということは、すごいことです。松陰が持っている本を生徒の能力に応じて貸与して読ませる。本を読んで大事と思ったところは書き抜く。松陰は生徒の間を回りながら、「どうしてそこは大事なのか」という質問をするところから教育を始めました。
 明治維新で士農工商の身分制が廃止され、身分の隔てなく、机を並べることから教育が出来き、そしてやがて、男女が机を並べるようになりました。

 出航後、3日間の朝の集いを使って第1班がアメリカの歴史と社会を調べ、発表して下さい。第2班がロサンゼルスの歴史と社会を調べる。アメリカとはどこの国からどういう人種が出てきて、だから合衆国となったことを説明して下さい。アメリカの歴史を調べると独立した時、ヨーロッパのどの国が中心となって独立したのか。その後、どういうふうに戦争があって、アメリカが合衆国として出来上がって行ったのか。
 トランプ大統領がどのような政策を取ろうとしているのか、日本にどういう影響を与えるのかについては第3班の課題です。メキシコには日本の企業が970社あります。日本の産業界に与える影響は、もし、20%、30%の関税を掛けられたならば、大打撃です。アメリカの自動車会社がメキシコに進出するのを止めたり、することになっています。第4班はロサンゼルスで見たこと、感じたことを、第5班はメキシコの人種、言葉、歴史と社会。第6班は、メキシコの地に上陸して見たこと、感じたことをそれぞれ調べておいて下さい。

 さて、人生80年、どんな自分を育てますか。これからの皆さんの人生は長いです。定年後は余生ではありません。たくさんの役割をもっています。でも、普段はそれを考える暇がありませんがこういった時にじっくりと考えてみて下さい。

 リッカートは、組織とは小集団の集合体ある、と言っております。部長がいてその下に3人の課長がいる。その下に3人のリーダーがいる。さらにその下に一般の社員がいる。そのコミュニケ―ションがうまくいけばいいですが、それがうまくいかないと組織はバラバラとなってしまいます。
我々の役割の中には、上司から「指示された役割」があります。次に、指示されていないけれども、これぐらいはやるであろうという「期待されている役割。」期待せず、上司も気が付いていないけれども、「作り出す役割」があります。
船の中の約束事です。チームワークのために、朝会ったらお互い「おはよう」と言いましょう。声を掛け合うということは、こっちもエネルギーが稼働し始めますし、スイッチがオンになります。
そして何かしてもらった時には「ありがとう」と言いましょう。そして、人の話を最後まで聞きましょう。

 準拠枠とは自分の関心、経験、感情、価値観、知識、思考、創造力など自分ではわかったつもりでも、思い込みや決めつけになり易い。だから相手の話を聞くというそういう自分の態度を持つということです。

 問題を見つける。「何かを見た時に何が問題かを考えてみよう」ということです。これに関しては、トヨタ生産方式を作られた大野耐一さんという方が、ひとつの事柄に対して何故の5つぶつけてみよ。と言っておられました。機会が止まった。ナゼ機会が止まったか。ヒューズが切れたからだ。そのヒューズを変えれば良い問題ではない。何故ヒューズが切れたか。軸受けの潤滑が十分ではないからだ。何故、潤滑油が十分ではないのか。ポンプが汲み上げていないからだ。何故汲み上げていないのか。ポンプの軸が摩耗しているからだ。それらが解ると対策をすることが出来るようになります。そこで5回のナゼを繰り返す。トヨタはこれで世界一となりました。従業員がアイデアを出すことで、どんどんと変わっていく。エンジニアやトップの力も大切ですがそれだけではないと言うことです。
 高度成長期や戦後の復興期を支えたのは若者の力です。職場の小集団活動で、知恵が集まって、力を持っている第一線の人が日本を変えて来た。どの時代も同じです。

 最後に、企業が従業員を採用する時にあたって一番重視することは、コミュニケーション能力です。あれだけスマホでやり取りしているように見えながらも本当の話をしていない、与えられた情報だけで判断していることへの苛立ちとしての現れです。

 大きなチャンスです。脱皮のチャンスです。このわずかな期間に自分が変わる、そういうつもりでいろいろな人と話してください。自分を変えていく。こんなチャンスはありません。

 会社からこの忙しい中出してくれる、家族も送り出してくれています。
 何よりも我々一人一人しっかりすることで企業がしっかりし、国が増強します。世界は安定した時代は過ぎました。
 今回自分を鍛える絶好のチャンスです。千載一隅のチャンスです。大いに活用して下さい。

 

古河電気工業㈱人事部長、常務取締役、古河物流㈱社長を経て、古河電気工業㈱顧問。一方、豊富な職業経験を基に、わが国のキャリアカウンセリングの第一人者として、神奈川大学経営学部教授、法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学大学院経営学研究科教授、日本産業カウンセリング学会会長、中央教育審議会、大学設置・学校法人審議会委員(文部科学省)、経済審議会特別委員(内閣府)、日本経団連教育問題委員会委員等の要職を歴任。また、第1回日経青洋上研修の運営委員長(1972年2月)、ユネスコ世界青年会議日本委員産業界代表(イギリスマンチェスター大学)としても参加する。
現在、厚生労働省キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会(座長)、人材育成学会理事、日本産業カウンセリング学会特別顧問、キャリアコンサルティング協議会顧問を務める。著書に『人材育成の進め方』『人事マン入門』日経文庫、『吉田松陰 松下村塾人の育て方』あさ出版等。